Sunday, November 8, 2009

5 Centimeters Per Second episode 1 桜花抄 3/3



 3番線 足利、前橋方面 高崎行き列車到着いたします
 この電車は雪のため、しばらく停車します

あかり

おいしい
そう?
普通のほうじ茶だよ
ほうじ茶 初めて飲んだ
うそ、絶対飲んだことあるよ
そうかな
そうだよ
それからこれ、わたしが作ったから味の保証はないんだけど
よかったら食べて
ありがとう おなかすいてたんだ すごく
どうかな?
いままで食べたものの中で一番おいしい
大げさだな
本当だよ
きっとおなかが空いてたからだよ
そうかな
そうよ
わたしもたべよっと
引越し、もうすぐだよね
うん 来週
鹿児島か
遠いんだ
栃木も遠かったけどね
帰れなくなっちゃったもんね

そろそろ閉めますよ もう電車もないですし

はい

こんな雪ですから お気をつけて

-はい -はい

見える? あの木
手紙の木?
うん さくらの木
ねえ、まるで雪みたいじゃない?
そうだね

その瞬間、永遠とか心とか魂とかいうものがどこにあるのか分かった気がした
13年間生きてきたことの全てを分かち合えたように ぼくは思い、それから次の瞬間 たまらなく悲しくなった
あかりのそのぬくもりを、その魂をどのように扱えばいいのか どこにもって行けばいいのか、それがぼくには分からなかったからだ
ぼくたちはこの先もずっと一緒にいることはできないと、はっきりとわかった
ぼくたちの前には、いまだ巨大すぎる人生が、茫漠とした時間がどうしようもなく横たわっていた
でも、ぼくを捕らえたその不安は、やがて緩やかに融けていき 後にはあかりのやわらかな唇だけが残っていた

その夜、ぼくたちは畑のわきにあった小さな納屋で過ごした
古い毛布に包まり、長い時間話し続けて、いつの間にか眠っていた
朝、動き始めた電車に乗って、ぼくはあかりと分かれた

あの、たかきくん
たかきくんも きっとこの先も大丈夫だとおもう 絶対
ありがとう
あかりも 元気で手紙書くよ 電話も

あかりへの手紙をなくしてしまったことを ぼくはあかりに言わなかった
あのキスの前と後とでは世界のなにもかもが変ってしまったような気がしたからだ
彼女を守れるだけの力がほしいと、強く思った
それだけを考えながらぼくはいつまでも 窓の外の景色を見続けていた

とうのたかきです
親の仕事で転校には慣れていますが、この島にはまだ慣れていません
あんた、本当なにも考えてないよね
とうのくんのことだけね
あいつぜったい東京に彼女いるよ
そんな
かなえの進路 ちゃんと相談に乗ってやんなさいよ ぼんやりした子なんだから
大丈夫よ、あの子ももう子供じゃないんだし
とおのくんがいる場所に来ると、胸の置くが少し、苦しくなる

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